食の安全コラム 今月と来月は、食品の安全を話題にする時「食品添加物」と並んで関心の高い「農薬」について触れてみることにします。

1. 農薬とは

農薬取締法(第一条の2)に次のような定義がされています。
  • 農作物を害する菌、線虫、ダニ、昆虫、ネズミ、その他の動植物又はウイルスの防除に用いられます。

    殺虫剤、殺菌剤、その他の薬剤(含除草剤)

  • 農作物の生理機能の増進又は抑制に用いられます。

    成長促進剤、発芽抑制剤、その他の薬剤

  • 前項の防除に利用されます。

    天敵 (その他性フェロモン等の誘引剤、忌避剤、有用微生物等)


2. 農薬の役割と必要性

  • 農薬は農作物を病害虫や雑草の被害から保護します。

    →安定した収穫量の確保

    日本植物防疫協会の資料によれば農薬を全く使用しない場合の収穫率は
    米:60〜70%、麦・豆・いも:35〜65%、果樹:0〜60%、野菜:20〜60%
    低下するとのことです。

    →農産物の品質の確保

    農産物の見栄えや等級の低下を防ぎます。
  • 防除に要する労力の削減
    農水省の「米生産費資料」によれば水稲の場合、除草剤のなかった頃(昭和24年)10アール当たり除草労働時間50.6時間が除草剤の使用や改良で(平成14年)1.7時間に軽減されています。
  • かび毒などによるリスクの低減
    穀類・ナッツ類。豆類・果物にはアフラトキシン等のかび毒の汚染の心配があります。 かび毒には極めて猛毒のものがあります。

3. 農薬の安全性と安全確保の仕組み

  • 農薬の安全性確保の基本となる法律に「農薬取締法」があります。この法律に基づいて農薬の登録、製造、輸入、販売、使用、取締りなどが厳重に規制され、安全性と適正な使用が確保されています。
  • 農薬に求められる安全性は、大きく分けると次の点が求められます。
    1. 農作業に従事する人の安全
    2. 農作物そのものの安全
    3. 農作物を利用する消費者の安全
    4. 環境の安全
  • これらを具体的に行なう方法として農薬の登録制度があります。
  • 農薬の登録には下記のような毒性試験が行なわれます。
急性毒性試験 経口、経皮、吸入、皮膚刺激性、等の試験
亜急性毒性試験 90日間反復経口、21日間反復経皮、等の試験
長期毒性試験 年間反復経口、発がん性、繁殖毒性、催奇性、等の試験
代謝試験 動物体内運命、植物体内運命、土壌中運命、等の試験
環境影響試験 水産動植物への影響、水質汚濁、等の試験
  • 農薬の基準値は次の考えによって設定されます。
    動物実験で無毒性量を決めます。 これに安全係数(1/100)をかけてADIを求めます。 ADIは食品添加物で説明したものと同じで1日摂取許容量です。
    ヒトが食品中に含まれる農薬を一生にわたり毎日摂取しても健康に影響が生じない1日当たりの摂取量(mg/kg体重 /1日)を云います。
  • 農薬は使用に際し使用基準を守る
    適用作物・使用量・希釈倍率・時期・回数などは商品ラベルに記載された使用方法と注意事項を守ることが基本。 これにより収穫物の農薬が残留基準を超えなく、安全が確保されます。
  • 農薬の保管・管理は厳重に
    農薬は食品と区別して、鍵のかかる場所に保管します。 また小児の手の届かない場所に保管し、容器を移し変えないこと。 劇薬物の取り扱いには特に注意する。